解雇3人?

煙草を吸っています。

朝、買い物へ出かけようとしていたら、隣の住宅に住む先生から、「来週、引っ越します。」と、挨拶がありました。レイにある高校への就職が決まったそうです。自己都合による退職かと思っていたのですが、学校側から解雇されたのだそうです。本当の理由は、よくわからないのですが、「トーライ族ではないので解雇された。」と、その先生は言っていました。
理由については、まったくわかりません。ただ、トーライ族ではない少数部族に、この地域の多数派のトーライ族に対する複雑な感情があるのは確かです。数ヶ月前から「やる気」を失っていて、職員会議にもほとんど出席していなかったので、「何かあるのかなぁ?」とは、思っていましたが、解雇通告されていたとは知りませんでした、・・・。その先生も含め、計3人が解雇されたそうです。
この先生は、もともと理数科の先生として、この学校に応募したらしいのですが、技術科の先生として採用されてしまったので、学校側との関係が、当初から良くなかったこともあるのでしょう、・・・。
その先生に関しては、どうしても忘れられないことがあります。ある日、学校から帰ってくると、「ちょっと、そこで風にでもあたっていかないか?」と、その先生が言うのです。パプア人は、「頼み事がある時」、「謝るべき時」に、こういう訳のわからないことを言います。お店であっても、電話局でも、空港でも、共通しています。だから、パプア人が、「何かわからないこと」、「脈絡の無いこと」を言い出したときは、悪い知らせです。
とにかく、何を言いたいのか、話を聞いてみると、「お前は、物理をよくわかっていないようだから、教えてあげよう。」と言うのです。今、思い出しても、かなり失礼な発言だと思うのですが、とりあえず、話を聞いてみることにしました。
すると、紙と鉛筆を取り出して、水力発電のダムの絵を書き出しました。そして、「これが、水力発電所だよ。」、「これで発電ができる。」、「この部分をジェネレーター、この部分をタービンと言う。」と講義がはじまりました。
そして、「いったん使った水を、ポンプでくみ上げれば、もう1度発電ができる。」と言いました。たしかに、日本では、電力使用量が少ない夜間にポンプで水をくみ上げているけれど、それは、火力、水力、原子力を組み合わせて発電している日本の話です。なぜ、日本のことを説明するのだろう???と、思った瞬間、彼は、信じられないことを言い出しました。
「これを、1回だけではなく何度もできるような機械を作るとどうなると思う?」、「永遠に電気を得ることができるんだ。」、「この仕組みで、小さな機械を作れば、川が無いような小さな村でも、発電ができる。」、「燃料は、必要ない。」、「小さな村の発展に役に立っている。」と、立て続けに言うのです。
川が無いところで水力発電???いったい何を言っているのかわからなかった自分は、「事実の説明をしているのか?」、「そういう機械が既にあるのか?」、「本で読んだのか?」、「アイディアなのか?」と聞きました。
彼は「こういう機械を作ることができるんだ。」と答えました。「その機械は既にあるのか、アイディアなのか?」と、再確認しました。すると、やっと「その機械は、まだ存在しない。」と認めました。
「水をくみ上げるためのポンプの電気はどうするのか?」と聞くと、「発電した電気の一部を使う。」と答えるので、「どんな発電効率の良い発電機と、効率の良いモーターを組み合わせても、発電した電気の一部では、水をくみ上げられない。」と説明しましたが、彼は、「それをできるような機械の開発をしたい。」と答えるのです。
そうです。彼は、日本人であれば、高校の物理で習う「エネルギー保存の法則」を知らなかったのです。
このブログを読まれている人は、エネルギー保存の法則をご存知だと思います。こういう「永久機関」が、作れないことも、21世紀を生きている現代人であれば、ほとんどの人が知っていると思いました。ところが、彼は、グレード12まで卒業した後、技術学校で電気を専攻している、この国の中では、それなりにエリートです。そのエリートが、物理の基礎知識である「エネルギー保存の法則」を知らなかったのです。
彼は、「このアイディアは、電力会社に勤めている友人も「実現可能」と言っている。」、「学生時代に、PNG Power(電力会社)の新料金徴収システムの開発にも加わった実績もある。」と付け加えました。
そして、彼は、「自分はこの研究をするために、日本へ留学したい。」、と、言い出しました。
謎が解けました。別の同僚が、日本に留学できるということを知って、その同僚が「最先端科学の研究のために日本に留学する。」と、勝手に思い込んでいたようです。JICA事務所から、前任者宛に送られてきた、日本への留学適任者推薦要請を、勝手に読んで、学校にはナイショで、JICA事務所に、応募書類をファックス送付したこともあったそうです。ちなみに学校のファックスは、壊れかけていて、鮮明な文書を送ることができません。JICA事務所からは、完全に無視されたようです。仮に郵便で送っていたにしても、学校にナイショということは、校長の推薦文が無いということです。書類不備のため、JICA事務所も書類を受理できないでしょう、・・・。
まあ、この人を、理科の先生として採用しなかった校長は、賢明だったと思います。レイでは、技術科と数学を教えるそうです。健闘を祈ります。
調べる必要も無かったのですが、彼が言っていたことが「嘘」であることを確認するために「新料金徴収システム」についても、調べたことがありました。結局、電気料金の「新料金徴収システム」は、パプアで開発したものではなく、南アフリカの民間会社が開発したものを、単に購入しただけであることがわかりました。彼が、開発に携わったという話は、100%、「嘘」でした。「このアイディアは、電力会社に勤めている友人も「実現可能」と言っている。」というのも、おそらく「嘘」でしょう。
パプア人は、平気で嘘をつきますが、学校の先生で、彼ほど平気で「嘘」をつく人はいませんでした、・・・。
彼には、「パプアの村落部における電力問題をなんとかしたい。」というような問題意識は、全くなかったようです。とりあえず、日本へ行きたかっただけのようです。彼は、これに懲りず、何度も「こんな研究をしたいから、日本へ留学できないか?」という話を、持ってきたので、・・・。「日本に行きたかったら、貯金して、観光客として行きなさい!!」というのが、決まり文句になっていました。
ちなみに、その先生の奥さんは、全国紙の新聞記者で、話をしてみると、かなりまともです。レイでも、新聞記者を続けられると良いのですが、・・・。
このエピソードは、今回のブログで、初めて公表します。他の協力隊員、JICA関係者、同僚の教師、校長にも、話をしたことはありませんでした。それだけ、自分にとってはショックな出来事だったし、「パプアって、こんなに(学校の先生の)教育水準が低いのか、・・・。」と、気絶するほど深刻に受け止めずにはいられないできごとでした。
数ヶ月前の出来事です。今であれば、気持ちに余裕があるし、パプアの教育水準についても、以前より把握しているので、違った受け止め方ができたのですが、・・・。
写真は、その先生ではありません。別の学校の先生です。この人も、来週、この学校から出て行きます、・・・。